令和 六年 一 月
1. 一夜飾り
門松や一夜飾りのすまし顔
御降りやしずくキラリと輝けり
元旦、三が日に雨や雪が降るのを御降(おさが)りといい、降(ふる)が古に繋がるので正月の忌み言葉として避けるそうです。ことばは、とても奥が深いです。
2. 初飾り
山中に暦日無けれど初飾り
(飛ぶ)
ことぶきのとぶを願いて初詣
一年を通じて修行を行う趣旨で「山中暦日無し」の禅語があります。でも、お寺では客間に赤い毛氈が敷かれ、花が飾られ、初春の華やかさに包まれていました。
3. 寒あかね
寒あかね不二の峰影際立たせ
はちじゆう どつこいしよ
百足らず八十歳目指し独行意生
冬の冴え渡ったあかね空の遠くに、富士山のすがたがシルエットのように映し出されています。あかね空の富士山は、格別に美しく、神々しさを感じます。
4. 達磨さん転んだ
達磨さん転んで冬の子らしづか
見事なるふくれっ面見せ切りの餅
子供たちが公園の広場で、達磨さん転んだの遊びをしています。子供たちの賑やかな歓声が、達磨さんが転ぶと、真剣で身動き一つしない姿になるのが面白いです。
5. 冬牡丹
冬牡丹わたしはここよと妻の声
過ぎしひと想い熱燗追加せり
この歳になると、多くの人との出会いと別れがありました。その人たちを想い、お酒を飲んでると銚子一本では足りません。これは、酒飲みの常套の言い訳です。
二 月
1. 冬の湖
釣人と鴛固まりぬ冬の湖
芋売りの声滑らせる湖面かな
「焼き芋~焼き芋~」、軽トラックの拡声器が焼き芋を売りに来たことを知らせます。その売り声は、夕方のしづかな湖面をすべるようにして聞こえてきます。
2. 春よ来い
春よ来い雪に葉の芽が唄いおり
冬薔薇や陽差しに映えて微笑みぬ
道路わきの垣根の上に、一輪の冬ばらが咲いています。冬枯れのいろどりの少ない寒空に一生懸命咲いています。思わず、がんばれと応援したくなりました。
3. 立春大吉
北風や立春大吉どうします?
歳時記を冬から春に替え置きぬ
暦の上では春になりましたが、まだまだ寒い日が続きます。それでも、春の準備を始めました。まず、手始めに机の上の俳句歳時記を冬から春に替えました。
4. 寒 椿
君といて言葉なき夜の寒椿
蕗味噌や破れた恋の味がする
陽だまりの雪に顔を出す蕗の薹を摘み、刻んで味噌と合わせて小皿に塗り、サッと火で炙るとよい酒の肴になります。ほろ苦い味がするんですよね・・・。
5. 冬籠り
冬籠り夜窓に映る老いた顔
犬の老い我も同じと冬眠す
夜窓に映る自分のすがたを見て、何時このように老いたんだろうと考えてしまいます。「チューリップわたしが八十なんて嘘(木田千女)」の句に共感を覚えます。
三 月
1. 草の花
草の花ちいさく咲けり華やかに
幼児の髪なびかせて風光る
春の穏やかな日差しの中、こんな処にと思う場所で、小さな草の花が咲いています。その草の花は、可愛らしく、そして何よりも華やかに咲いています。
2. 寒苦鳥
われも又寒苦鳥なり寒緩む
ぬくぬくや布団の中のおらが春
寒苦鳥は、雪山に住む想像上の鳥。夜の寒さに耐えかねて朝になれば巣を造り寒さを防ごうと決心するが、朝日が昇り暖かくなるとそんな労は不要と思う怠け者。何のことはない、私のことです。
3. 句作り
句作りは生きると同じミモザ咲く
嬰児にウインクされし喜寿の春
句作りする人は、みな同じ想いと思います。自分が満足する句作りは、なかなかできません。それは、自分が思った通りには生きられないのと同じと思います。
4. 我逝かん
死ぬときは盃伏したのち雪の夜
梅が香や後つかえますと我逝かん
「死ぬときは箸置くように草の花(小川軽船)」。私の好きな句の一つで、私も作ってみました。雪見酒に招かれ、美味しいお酒を頂戴しましたと挨拶して盃を伏し、そのままひっくり返って彼岸に渡る。こんなにうまくいきますかね。
5. 猫の恋
尾を立てて凛々しく歩む猫の恋
ひとの世はいつも発情ねこ笑う
猫が言っていました。私たちは恋の季節が決まっていて、その時は恋に狂うの。でも、人間は一年中が恋の季節で恋に狂っているの。私たちに比べて品がないわよね。
四 月
1. 桜 人
桜人けふの吾の異名なり
花七日残りは夢の中で咲く
桜の開花の時期は、年によって相違がありますが、開花すると花のいのちは長くはありません。私は、桜が咲き始めると、桜人になって花見に出かけます。
2. 蕾
うす紅に蕾ふくらみ空に発つ
花吹雪風の間に間の静けさよ
桜の花は、風が吹き、雨が降っても散り始めます。土手の桜並木は、風が吹いて花吹雪になりました。でも、風が止む合間、合間は心静かな気持ちになります。
3. 卯の花
卯の花や沖の船影動かざり
空碧く菜の花畑流れゆく
空の碧さと菜の花の色彩の取り合わせは、春の季節を代表する風景といえます。車窓からの流れゆく菜の花畑の景色は、春賛歌のことばがぴったりです。
4. 春長閑
洗濯機今日も元気に渦を巻く
干し物に陽と風当たる春長閑
洗濯ものに陽差しが当たり風にそよぐ光景は、穏やかな日常生活の一こまといえます。洗濯機のなかった時代、毎日の洗濯作業は大変だったろうと思います。
5. 目目かゆし
目目かゆし眼ん玉かっぽじって洗ったろか
東京の雪はぐちゃぐちゃ矜持なし
春は、花粉症の人にはつらい季節です。涙とくしゃみ、眼もかゆいです。でも、よいこともありました。葬儀に参列し、涙目はその場の雰囲気にとても適してました。
五 月
1. 千年の苔
京都広隆寺にて
千年の苔青々と閑なり
京都島原にて
英傑が潜りし門の白粉花
千年微笑み続ける京都広隆寺の弥勒菩薩を拝観しました。寺の境内の苔も青々と静かでした。島原の遊郭跡にも寄りました。幕末の動乱期には英傑がよく遊びに来たそうです。
2. 牡 丹
大輪を一夜で咲かす牡丹かな
風吹けば身をまかせ散るさくら哉
今年も牡丹の花が咲きました。前日まで蕾だったのが、一夜で大輪の花を咲かせました。牡丹の細い幹が、この艶やかな大輪を一生懸命に支えています。
3. 藤の棚
ひと見上げ花見下ろすや藤の棚
花探し歩き疲れた芽吹きかな
藤棚の花が満開です。見物客は、一様に花を見上げ(何人かは口を開けて)、花は上から人を見下ろしています。このシーン、何となく可笑しいと思いませんか。
4. 糸 柳
糸柳透けて見ゆるは娑婆世界
陽炎の朝生夕死今ばかり
糸柳のうす緑の若葉が風にそよいでいます。春の穏やかな風景といえます。でも、若柳の透けて見える向こう側は、われわれが住む現実の厳しい娑婆の世界です。
5. 膝を抱く
(抱いて)
“アブラサメ” 唄う歌あり膝を抱く
P.S. あいらぶゆ 使いたかったなこの台詞
健康診断:(私)トイレが近くなりました。(医師)それは加齢です。眼がかすむ時があります。それも加齢です。(医師)バランスのとれた食生活が大切です。昨日の夕食は?(私)それはカレーです。
六 月
1. 梅雨入り
傘選び母とむすめの梅雨の入り
牡丹葉のしずく輝き梅雨に入る
傘売り場で母親と小学生くらいの娘が傘選びをしています。幾つもの傘を開いては、楽しそうに話をしています。女性用の傘売り場は、色彩が豊かで華やかです。
2. 紫陽花
紫陽花や身を乗り出して顔を見せ
艶やかな紫陽花前の椅子が邪魔
紫陽花の大輪が、垣根越しに「わたしを見て、見て・・」と言わんばかりに、身を乗り出すようにして咲いています。梅雨の時節の紫陽花は、とても艶やかです。
3. 眼に涙
驢馬にムチむすめと妻の眼に涙
わら草履三つ四つ五つ顔を見せ
観光地で驢馬が引く馬車に乗りました。登坂で御者のおじさんが少し強くムチを入れました。それを見て娘と妻の眼に涙。私は、笑うわけにもいかず横を向きました。
4. 花菖蒲
かわず
菖蒲田の蛙目ぎよろり花の守
濃むらさき釈迦立つすがた花菖蒲
雨の降るなかの花菖蒲は、しっとりと濡れて風情があります。菖蒲田の中の蛙は、見物人が美しい花に何か悪さをしないかと眼をぎょろつかせて見守っています。
5. 恋ごころ
恋ごころ変な心やちまき喰ふ
恋心それも煩悩釈迦の説く
昔、私も恋心なるものに感染した記憶があります。今、恋心とちまきのどちらかを選べといわれたら、断然ちまきを選びます。だって、ちまきは食べられますから。
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投稿者 中嶋 徳三