令和 五年 一 月
1. 賀 正
イヴ 終わり松が見え切る賀正かな
雪踏みて新しき道描きたり
クリスマスが終わると、デパートは一夜にして正月松飾りに変わります。その変わり身の速いこと、速いこと。神様だって、きっと出番のタイミングに慌てていると思います。
2. 初詣り
八十島の神うち揃い “ 出陣だ~”
初詣り千両の実ほど福願ふ
初詣りした地元の神社では、家族全員の幸せと健康など、たくさんのお願いをしました。でも、私のお賽銭の額では、ちょっと欲張りだったかもしれません。
3. 柚子の実
柚子の実や一息ついて妻見舞ふ
柚子の実に思いがけない泪かな
妻が入院した病院の植え込みに柚子の実がなり、そこで一息ついてから病室に向いました。妻が死亡した後、実家の庭に柚子の実がなり、それを見て思いがけず涙がでてしまいました。
4. 寒 椿
月様となにを咄すや寒椿
竹ぼうき雪の帽子を冠り立つ
夜空の月と生垣の寒椿が向き合い、何やら話をしているように見えます。何について、話してるのでしょうか。やっぱりあの事でしょうか。(今年の世界経済の行方について)
5. 賀 状
ひとの世の無常をしるす賀状かな
熱燗や今日一と日みな好とする
元会社関係者の賀状に、老いたが元気とありました。その彼が、賀状投函後の年末に急死したのを後日知り驚きました。その夜の晩酌の酒量は、増えました。
二 月
1. 雪起し
雪起しゴロと響きて天抜ける
うる
雪白し美はし怖しひと温し
北日本の豪雪地帯では、雪起しの雷が鳴ると、天が抜けたかと思うほどの大雪になります。家々は雪に埋もれ、でも家の中には寒い風が入らず、人は暖かさを感じます。(写真、1976年信州飯山肴町)
2. 蓑 虫
大寒やわれ蓑虫になりにけり
つつが
着ぶくれて恙なきやと顎を下げ
冬の寒い時期は、どうしても着ぶくれになります。知人と待ち合わせをしたとき、二人とも着ぶくれていて、お互い顎を下げただけの挨拶でした。
3. つがい鴛
つがい鴛今日は互いにそっぽ向き
冬の夜はトロイメライで聴き納め
おし鴛夫婦の言葉の通り、つがい鴛は仲のよい夫婦鳥です。でも、今日はお互いそっぽを向いています。分かります。時には、相手の顔を見たくないと思うこともあります。
4. 蝋燭の灯
窓映す蝋燭の灯にいのち見ゆ
ろうそく灯妖艶にしてわれ誘う
夜窓に映る蝋燭の灯は、時々揺れて妖艶な生きものに見えます。人間と灯は、長いつき合いがあり、私たちは灯を見ていると心が落ち着くのでしょう。
5. 老 梅
喜寿となるいつ歳とりたか覚えざり
㐂寿のわれ老梅の歳に届かざり
私には、素直で、心やさしい妹が二人もいます。幸せなことと思います。何ですって? 妹二人に会ってみたいですって。やめておきなさい。悪いことは言いませんから・・・。
三 月
1. 春 芽
出ましたよホレ出ましたよ春の芽が
寒けれど春の気配にマフラー剝ぐ
まだ寒い日もありますが、春の息吹が感じられるようになりました。草木の新芽が顔を出し始めたのを見て、首に巻いたマフラーを剥ぎ取りました。
2. 水仙花
水仙のつぼみ脹らみこころ春
母植えし水仙がまた咲きにけり
小道沿いに咲く水仙は、春の先駆けの花です。母が植えた水仙の花は、母の死後も春になると顔を並べて咲き、今年も春が来たのを知らせています。
3. 枯れ蓮
蓮の花天上の麗写しだし
枯れ蓮や地獄の様子かい間見せ
蓮の花は、天上に咲くといわれる美しい花です。しかし、冬になると枯れた蓮の幹は折れ曲がり、無残な姿を見せています。われわれ人間も同様といえます。
4. 若 葉
花摘みの手を止めて見る若葉かな
マシュマロの赤子のほほや桃の花
色鮮やかな花が咲く春は、その美しさに見とれてしまいます。でも、その花に負けず劣らず、草木の芽吹きと若葉もとても美しいです。
5. 絹のこゑ
謝謝テレサ眠り誘なう絹のこゑ
秀句でき思い出せずや朝ぼらけ
毎晩、テレサ・テンのシルキーボイスの歌を聴きながら眠ります。最近、彼女の中国語の素敵な曲を聴きました。曲名「月亮代表我的心(月が私の心を映してる)」。
四 月
1. 桜咲く
桜咲く春の祝宴いざ開かん
幼児の名札の白さ春ひかる
桜の開花の便りが聞こえ始めると、心騒がしくなります。近くの公園に出かけ桜の蕾を観察したりします。桜が咲くまでの時期が一番期待が大きく、わくわくします。
2. 夜 桜
夜桜や赤子を背負う夫婦あり
花月夜ぼんぼりの灯は眠たそう
ぼんぼりの灯に照らされた夜の桜は、花の濃淡が際立ち妖艶な姿です。昼間の桜の艶やかさと、夜の妖艶さはどちらも素敵ですが、私は夜桜の方が好きです。
3. 蓮華草
蓮華草三重八重十重の花絨毯
れんげ草夢の中まで咲きにけり
幼い頃に見た田んぼに咲く蓮華草は、花が幾重にも重なり、絨毯を敷き詰めたような豪華さでした。蓮華草と聞くと、今でもこの田んぼの蓮華草を思い出します。
4. 菜の花
菜の花や丘駈けのぼり天に接す
卯の花や空の碧さと競い合い
空の碧さと菜の花が一面に咲くコントラストはとても強烈で、春の華やかな風景です。青空の下で咲き誇る菜の花は、春爛漫のことばがぴったりです。
5. 白もくれん
白もくれん閻魔さまへの捧げもの
えんま大王との想定問答集あります
人は死ぬと生前の行いに関し、7回の審判があり、49日目に判決が下るそうです。私は、裁判官の閻魔大王に白木蓮を捧げ、この花のように清く、正しく、美しく生きましたと主張(若干、忸怩たるところはありますが・・)しようと思います。
五 月
1. 水 田
神々し水田のつづく皐月かな
苗の列途中で曲がる水田かな
新幹線で名古屋に行く途中、車窓に五月の空を映した水田が続き、その景色に見とれました。この水田を神々しいと思うのは、日本人の感性といえるでしょう。
2. 母の日
母の日に駿馬に蹴られる夢を見た
夕あかね母のごとくの慈愛あり
夢の中で、私は老いた母から説教されていました。反論しようと思いましたが、言葉がでてきません。いつまでも、どこにいても母親は母親です。
3. 草の花
ひと知れず咲き散りぬいた草の花
あげ羽蝶ひと信ずるなとSNS
父は、幼いわが子に「むやみに人を疑ってはいけない」と諭しました。その父は、成人した子から「お父さん、SNSは初心だから、人をむやみに信じてはダメ」と諭されました。
4. 朧 月
若竹の天を目指すやおぼろ月
朧月悩みあるなら言うてみな
若竹が、天に向かって勢いよく伸びています。夜空の朧月は、そんなに急に伸びて途中で折れたりしないかなと、心配そうな顔つきで見下ろしています。
5. 牡丹散る
花ならば花の愁いや牡丹散る
わが仏心しきりに智水欲したがり
仏教徒は守るべき五戒があり、お酒を飲むのが禁じられます。でも、お酒とは呼ばず、般若湯とか、智慧を増す水などの別名があります。私は、智慧をつけたいので今日も智水を頂戴します。
六 月
1. 燕舞う
神宿る水田の上につばめ舞う
草萌えて草むしりの手躊躇せり
春には、多くの草も生えてきます。重い腰を上げ、草とりを始めました。でも、若々しいうす緑の草の生えた所にきて、草むしりの手が止まってしまいました。
2. 花菖蒲
菖蒲田の江戸紫の粋なこと
水辺揺れ覗き込むよな花菖蒲
花菖蒲(アヤメ)の種類は豊富で、色さまざまな立ち姿を楽しめます。小雨が降るなか、江戸紫と名の付いた花菖蒲は粋な立ち姿を見せていました。
3. 雨垂れ
雨垂れや二葉揺らして落ちにけり
葉のしずく涙に見える別れかな
知人の突然の訃報に驚き、「善い人から先に逝きますね」と、お悔やみの言葉を添えて慰めました。でも、90歳を超えた叔父にこの言葉を言ったら睨まれました。
4. 傘売り場
男凛々し女華やか傘売り場
相合傘使わぬ傘の持ちごこち
梅雨の時期、傘売り場には多くの傘が並び、お客さんで賑わいます。男性用の凛々しく大ぶりの傘、女性用の小ぶりで色鮮やかな傘、傘は今も昔も変わりませんね。
5. 紫陽花
紫陽花の吹きこぼれをり垣根越し
艶やかな紫陽花隠し立ち話
道路わきに紫陽花の艶やかな大輪が咲いています。先ほどから、二人の叔母さんがその大輪の前で立ち話をして邪魔をしています。立ち話は終わりそうにありません。
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投稿者 中嶋 徳三