私の好きな俳句
俳句の素晴らしさは、時代を越えて作句者のこころに「同期」ができます。今日まで引き継がれてきた俳句には、作句者の季節を愛でる描写力と感性、優しさや温かみ、時として皮肉や可笑しさなどに溢れています。
私の好きな俳句 50を選び、作句者とその年代を記しました。ある俳人の言に、名句には熟成したブランディを舌の上にのせ、転がして味わうような趣があるとの説明がありました。皆さまも、どうぞ俳句の味わいをお楽しみください。
私の好きな俳句 50:
(第一集)
大晦日定めなき世の定めかな 井原 西鶴 1642~1693
さまざまな事思いだす桜かな 松尾 芭蕉 1644~1694
山路きて何やらゆかしすみれ草 松尾 芭蕉
此の道や行く人なしに秋の暮 松尾 芭蕉
閑かさや岩にしみ入る蝉の声 松尾 芭蕉
襟巻に首引き入れて冬の月 杉山 杉風 1647~1732
憂きことを海月に語る海鼠かな 向井 去来 1651~1704
手のうえにかなしく消る蛍かな 向井 去来
むめ一輪一りんほどのあたゝかさ 服部 嵐風 1654~1707
行水の捨てどころなき虫の声 上島 鬼貫 1661~1738
朝顔や釣瓶とられてもらひ水 加賀千代女 1703~1775
行く秋や抱けば身に添う膝頭 炭 太祇 1709~1771
春の海終日のたりのたりかな 与謝 蕪村 1716~1784
白露や茨の棘にひとつづゝ 与謝 蕪村
なの花や月は東に日は西に 与謝 蕪村
春雨やものがたりゆく蓑と傘 与謝 蕪村
世の中は三日見ぬ間に桜かな 大島 蓼太 1718~1787
人恋し灯ともしころをさくらちる 加舎 白雄 1738~1791
痩蛙まけるな一茶是に有 小林 一茶 1763~1828
梅の香やどなたが来ても欠茶碗 小林 一茶
雀の子そこのけそこのけ御馬が通る 小林 一茶
小春日や石に噛み居る赤蜻蛉 村上 鬼城 1865~1938
島々に灯をともしけり春の海 正岡 子規 1867~1902
手毬唄かなしきことをうつくしく 高浜 虚子 1874~1959
つゆばれや一筋横に蜘蛛の糸 小澤 碧童 1881~1941
よろこべばしきりに落つる木の実かな 富安 風生 1885~1979
日を追わぬ大向日葵となりにけり 竹下しづの女 1887~1951
熱燗のいつ身に付きし手酌かな 久保田万太郎 1889~1963
外にも出よ触るるばかりに春の月 中村 汀女 1900~1988
うららかや猫にものいふ妻のこゑ 日野 草城 1901~1956
今朝咲きしくちなしの又白きこと 星野 立子 1903~1984
カフカ去れ一茶は来たれおでん酒 加藤 楸邨 1905~1993
戒名は真砂女でよろし紫木蓮 鈴木真砂女 1906~2003
突然死望むところよ土筆野に 鈴木真砂女
少しづゝ用事が残り日短 下田 実花 1907~1984
霜掃きし箒しばらくして倒る 能村登四郎 1911~2001
きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり 高橋 重信 1918~1980
家々や菜の花いろの灯をともし 木下 夕爾 1914~1965
藤咲いて天のしづけさ垂れにけり 鶯谷七菜子 1923~2018
死神に覗かれてゐる日向ぼこ 木田 千女 1924~2019
チューリップわたしが八十なんて嘘 木田 千女
秋刀魚食うかつて男は凛たりし 藤田 湘子 1926~2005
いつの世も月は一つや燗熱し 鈴木 鷹夫 1928~
酒蔵で道折れ曲がるしぐれかな 山本 洋子 1934~
がんばるわなんて言うなよ草の花 坪内 捻転 1944~
さびしいと言えば絵になる秋の暮 櫂 美知子 1960~
また一つ風の中より除夜の鐘 岸本 尚毅 1961~
死ぬときは箸置くように草の花 小川 軽船 1961~
地下鉄を出れば銀座の春の雪 吉野 信子 1952~
はつ春や金糸銀糸の加賀手毬 田村 愛子
(第二集)
鶯も笠きていでよ春の雪 千 利休 1522~1591
春立つやにほんめでたき門の松 齋藤 徳元 1599~1647
色姿わが身も風の桜かな 吉野太夫 1606~1643
雲雀より空にやすらふ峠かな 松尾 芭蕉 1644~1694
おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな 松尾 芭蕉
旅人と我名よばれん初しぐれ 松尾 芭蕉
涼風や青田の上の雲の影 森川 許六 1656~1715
越後屋に衣裂く音や衣替 宝井 其角 1661~1707
樫の木のすんと立ちたる月夜かな 上島 鬼貫 1661~1738
淋しさの底ぬけて降るみぞれかな 内藤 丈草 1662~1704
行く水におのが影追ふ蜻蛉かな 加賀千代女 1703~1775
水桶にうなずきあふや瓜茄 与謝 蕪村 1716~1784
山は暮れて野は黄昏の薄哉 与謝 蕪村
夏河を越すうれしさよ手に草履 与謝 蕪村
ともしびを見れば風あり夜の雪 大島 蓼太 1718~1787
桜咲きさくら散りつゝ我老いぬ 高桑 蘭更 1726~1798
菫つめばちひさき春のこころかな 加藤 暁台 1732~1792
目出度さもちう位也おらが春 小林 一茶 1763~1828
大蛍ゆらりゆらりと通りけり 小林 一茶
我と来て遊べや親のない雀 小林 一茶
川底に蝌蚪の大国ありにけり 村上 鬼城 1865~1938
長閑さや障子の穴に海見えて 正岡 子規 1867~1902
どっしりと尻を据えたる南瓜かな 夏目 漱石 1867~1916
眼つむれば若き我あり春の雪 高浜 虚子 1874~1959
飛魚や航海日誌けふも晴 松根東洋城 1878~1964
笠にとんぼをとまらせてあるく 種田山頭火 1882~1940
折りとりてはらりとおもき芒かな 飯田 蛇笏 1885~1962
あんずあまそうなひとはねむそうな 室生 犀星 1889~1962
ぬかるみにともしび映る夜寒かな 芥川龍之介 1892~1927
冬菊のまとふはおのがひかりのみ 水原秋桜子 1892~1981
こほろぎのこの一徹の貌を見よ 山口 青邨 1892~1988
咳の子のなぞなぞあそびきりもなし 中村 汀女 1900~1988
うららかなけふのいのちを愛しけり 日野 草城 1901~1956
降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男 1901~1983
つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口 誓子 1901~1994
口ごたえすまじと思う木瓜の花 星野 立子 1903~1984
詩も川も臍も胡瓜も曲りけり 橋 閒石 1903~1992
ひく波の跡美しや桜貝 松本たかし 1906~1956
水打ってそれより女将の貌となる 鈴木真砂女 1906~2003
元旦の海に出て舞ふ一葉かな 中川 宗淵 1907~1984
蝌蚪乱れ一大交響曲おこる 野見山朱鳥 1917~1970
一枚に海を展べたる薄暑かな 森 澄雄 1919~2010
天上に宴ありとや雪やまず 上村 石魚 1920~1996
石塀を三たび曲がれば秋の暮 三橋 敏雄 1920~2001
雪吊の繩のいっぽん怠けをり 伊藤 白湖 1926~2008
手から手へあやとりの川しぐれつつ 澁谷 道 1926~
熱燗の夫にも捨てし夢あらむ 西村 和子 1948~
金魚売買へずに囲む子に優し 吉野 信子 1952~
青空に喝采のごと辛夷咲く 白濱 一羊 1958~
年暮れてわが子のごとく祖母逝かむ 関 悦吏 1969~
(第三集)
これやこの江戸紫の若なすび 西山 宗因 1605~1682
葱白く洗ひたてたる寒さかな 松尾 芭蕉 1644~1694
よくみれば薺花さく垣ねかな 松尾 芭蕉
大原や蝶の出て舞ふ朧月 内藤 丈草 1662~1704
行女袷着なすや憎きまで 炭 太祇 1709~1771
やぶ入りの寝るやひとりの親の側 炭 太祇
干し物に影のあそぶや鶏頭花 横田 柳几 1716~1788
不二ひとつ埋みのこして若葉哉 与謝 蕪村 1716~1784
楠の根を静にぬらすしぐれ哉 与謝 蕪村
死神に見はなされたか老の春 上田 無腸 1734~1809
猫の子のちよいと押へる木の葉かな 小林 一茶 1763~1828
投げ出した足の先也雲の峰 小林 一茶
念力のゆるめば死ぬる大暑かな 村上 鬼城 1865~1938
長けれど何の糸瓜とさがりけり 夏目 漱石 1867~1916
さらさらと竹に音あり夜の雪 正岡 子規 1867~1902
冬ざれや石に腰かけ我孤独 尾崎 紅葉 1868~1903
青田貫く一本の道月照らす 臼田 亜波 1879~1951
水が水とうたいはきめる春になる 萩原井泉水 1884~1976
がちゃがちゃとつくつくぼうしうた唄ふ 種田山頭火 1882~1940
老妓ひとり春夜の舞の足袋白し 渡辺 水巴 1882~1946
いきいきとほそ目かがやく雛かな 飯田 蛇笏 1885~1962
月出でて一枚の春田輝けり 前田 普羅 1884~1954
夕さくら恋はほのかにありぬべし 竹下 夢二 1884~1934
前へススメ前にススミテ還ラザル 富安 風生 1885~1979
呪ふ人は好きな人なり紅芙蓉 長谷川かな女 1887~1969
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎 1889~1963
白露や死んでゆく日も帯締めて 三橋 鷹女 1899~1972
野に出れば人みなやさし桃の花 高橋 素十 1893~1976
着ぶくれて我が一生も見えにけり 五十嵐播水 1899~1976
ところてん煙の如く沈み居り 日野 草城 1901~1956
ちらと笑む赤子の昼寝通り雨 秋元不二男 1901~1977
降りし汽車また寒月に発ちゆけり 白合山羽公 1904~1991
長生きも意地の一つか初鏡 鈴木真砂女 1906~2003
淡雪やBarと稲荷と同じ路地 安住 敦 1907~1988
街灯は夜霧にぬれるためにある 渡辺 白泉 1913~1969
家々や菜の花いろの灯をともし 木下 夕爾 1914~1965
あやまちはくりかえします秋の暮 三橋 敏雄 1920~2001
子を捨てしわれに母の日喪のごとく 瀬戸内寂聴 1922~2021
松茸の椀のつつつと動きけり 鈴木 鷹夫 1928~2013
風がわいわい駆け抜ける冬木立 永 六輔 1933~2016
水仙の花のむかうはいつも海 伊藤 敬子 1935~2020
白菊の在所に入れば波の音 山本 洋子 1934~
脱ぎ捨てし外套の肩なほ怒り 福永 耕二 1938~1980
秋茄子や誰も居ぬので拝んでみる 宇多喜代子 1935~
多分だが磯巾着は義理堅い 坪内 稔典 1944~
ぶらんこの影を失ふ高きまで 藺草 慶子 1959~
佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり 櫂 未知子 1960~
長女には長女の恋や花大根 黛 まどか 1962~
兄以上恋人未満掻き氷 黛 まどか
生も死もたかだか一字夕端居 宮澤 映子
ー了ー
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投稿者 中嶋 徳三