ご挨拶

 

 私のウェブサイト俳句集に、ちょっと寄って行かれませんか。 

 日常生活の中での気づきや感想を、五・七・五の俳句の手法で表現しました。俳句作りには、季語の約束がありますが、私はストレートな表現が好きなので季語の入らない短句も含まれます。

 毎月初め、私の句をウェブサイトに投稿する予定です。自己流で作った句集ですが、どうぞご覧ください。

 

                            中嶋 徳三  

令 和 七 年  


 和歌が若い人たちに人気です。俳句17音(五七五)に比べて和歌は31音(五七五七七)、この差が表現の領域を拡げて詩情を豊かにします。そこで私は考えました。一つのテーマに、関連した二つの句を合わせると合計34音、和歌の詩情に迫れるかもしれないと考えました。

 令和七年の一年間は、この考えの下、過去に掲載した句を中心に改めて2句の組み合わせを再検討し、詩情を豊かにしたいと思います。従前通り、句には写真と短文を記載します。お付き合いの程、お願い申し上げます。

十 月


1.  稲 穂

  

稲穂

穂を下げて色づく稲の重みかな

 

 

 

虫喰い葉立派に紅葉なされたり

 

 

 玄関横の植木の葉っぱが虫に食われ気になっていました。秋が深まるにつれ、その虫食い葉が黄色に色づき始めました。立派に紅葉してよかったねと声をかけました。


2.  寺の秋

  

秋の寺

鐘の音がしづかさ運ぶ寺の秋

 

 

 

墨染の衣を濡らす初時雨

 

 

 夕暮れ時、寺の鐘の音が聞こえてきます。今日はこれで寺の門を閉めますと告げています。鐘の音とともに街にも灯りが点り、一日が終わり暮れていきます。


3.  すすきの穂

  

すすきの穂

顔を上げ上向きなさいすすきの穂

 

 

                 はは                         

枯尾花腰の曲げ方義母に似て

 

 

 芒は秋の風情によく似合います。芒の穂は皆一様に垂れ下がっています。上を向くへそ曲がりの芒がいても面白いと思うのですが、やっぱり生き辛いのでしょうか。


.  夜汽車

  

秋の月

夜汽車ゆく遠く近くを風に乗り

 

 

 

嵐去り虫の音さやか百万倍

 

 

 秋の夜、空気が澄んでいるのでしょう、電車の走る音がよく聞こえてきます。風向きによっては、遠くを走っている時もあれば、もっと近くを走る時もあります。


.  濡れ落葉

  

秋雨

濡れ落葉わが身に重ね庭を掃く

 

 

 

秋雨や雨紋はジャズを奏でおり

 

 

 私のストレス解消法です。車のナビに行先を入れ発車します。ナビのお姉さんが次の交差点を左といったら直進し、右といったら左に行きます。5・6回やるとすっきりします。ナビのお姉さんは「このクソじじい」とは言いません。


.  萩の駅

  

柿の実

降りる人乗る人もなし萩の駅

 

 

 

信濃路や屋根に柿の実たわわ生る

 

 

 ローカル線の電車に乗りました。駅に着いて車両のドアが開きましたが、降りる人も乗る人もいませんでした。駅のホームには萩の花がしづかに咲いていました。


九 月


1.  秋彼岸

  

曼珠沙華の花

彼岸へはこの角曲がれと曼珠沙華

 

 

 

残り香を微かに聴ける彼岸かな

 

 

 彼岸の墓参に行く途中、親戚の人が墓参を終えて帰って来るのに出会いました。挨拶と少し立ち話をしましたが、その人の衣服からは微かに線香の香りがしました。


2.  桔 梗

  

桔梗の花

廃屋の桔梗の花は凛と咲き

 

 

 

桔梗花濃むらさき色影作り

 

 

 昔、長野と新潟の県境にある豪雪地帯の村を訪れました。冬の生活が厳しく何軒もの廃屋がありました。一軒の廃屋の庭には桔梗が凛とした姿で咲いていました。


3.  秋 祭

  

夜の月

秋の月遠くに祭太鼓鳴る

 

 

 

蟻一列祭の山車を引くごとし

 

 

 夜、地元の神社の祭太鼓の音が風に乗り微かに聞こえてきます。日中はまだまだ厳しい残暑が続きますが、夜になると時折秋の気配を感じられる時節になりました。


4.  空 蝉

  

たぬきの像

 

空蝉やスマホを見る眼みな同じ

 

 

 

腹入らぬ美脚パンツを何としよ

 

 

 電車の七人掛けの席に座る乗客のうち、通常五人から六人、時には七人全員がスマホに見入っています。その乗客の眼は、誰もが同じで真剣かつ一心不乱です。


5.  夏 了

  

花も美しい

 

扇風機頭を垂れて夏終る

 

 

  

竹ぼうき坊主になりて夏了

 

 

 今年の夏の暑さは特別です。一晩中、クーラーをかけ、冷気拡散のため扇風機も回し続けます。翌朝、スイッチを切ると扇風機は働き疲れましたと頭を垂れてます。


6.  咽び泣く

  

夜の灯

咽び泣く死語になりたり月笑ふ

 

 

こほろぎ 

蟋蟀が君の背で啼くさよならと

 

 

 昔の映画や演歌に、女性の咽(しの)び泣くシーンや台詞をよく見ました。最近はあまり聞かなくなりました。やっぱり、女性が強くなったからでしょうか・・。


八 月


1.  炎 暑

  

百日紅の

行き倒れ頭をよぎる炎暑かな

 

 

 

炎天に松明かかぐ百日紅

 

 

 今年の夏の暑さは尋常ではありません。日差しの強い日中に外出したら行き倒れになりそうです。プレゼントされた男性用の日傘を使い片影を辿りながら歩きます。


2.  遠 雷

  

雷神

遠雷の音数え待つ夕涼み

 

 

 

神鳴りといえど今宵は優しけり

 

 

 小学校で稲妻が光ったら雷の遠近の判断のため音が聞こえるまでを数えなさいと教わりました。私はよほど怖かったのでしょう稲妻が光る度に真剣に数を数えました。


3.  幽霊坂

  

山門と坂

幽霊に会いたし怖し闇夜坂

 

 

 

古井戸に西瓜吊した昼寝かな

 

 

 お茶の水は坂が多く幽霊坂があります。昔、周辺は大名屋敷で木が生茂り昼間でも薄暗かったそうです。今はビルが立ち並び幽霊さんも出ずらいでしょう。出たら学生に囲まれ、「キャ~足がない、写真撮らせて~」。幽霊さん「恨めしや~」。


4.  佐藤奈良

  

夏空の白雲

  さよなら

佐藤奈良と文を残して飛び立ちぬ

 

            くも 

礎の石碑無言や白雲流る

 

 

 筑波山、霞ヶ浦周辺は戦争中に特攻隊の訓練基地があり現在は記念館があります。出撃の時、別れを暗号化して書き残し飛び去った隊員の手紙が展示されていました。


5.  盆踊り

  

盆踊り

新しい下駄に墨つけ盆踊り

 

 

 

スニーカーまあまあよろし浴衣着に

 

 

 子供の頃、盆踊りと夜店は楽しい行事でした。新しい下駄を下ろし、でも慣れずにつまずかないよう下駄の裏側にお呪いの墨をちょっと付けます。素敵な慣習でした。


6.  施餓鬼会

  

施餓鬼会

施餓鬼会の香揺るがすや蝉の声

 

 

 

茄子胡瓜つまらなそうに面並べ

 

 

 施餓鬼会は、毎年夏の盛りに蝉の鳴き声の中で行われます。その蝉の声は、祭壇に供えられた線香から立ち登る煙を揺るがすのではと思うほど盛大な鳴き声です。


七 月


1.  初の盆

  

水連の花

戒名の墨跡涼し初の盆

 

 

 

初蝉や鳴く声聴く耳整わず

 

 

 菩提寺のご住職が、亡くなった妻に高い位の戒名をつけてくれました。彼の世でも “私の方が位が上よ”、と差配されそうですと言ったら、住職は笑っていました。


2.  白 桃

  

桃

桃の果やうっふうっふの顔並べ

 

 

 

柔肌に触るる如くに白桃を剥く

 

 

 お中元に桃を沢山いただきました。箱のなかの桃たちは、何かおかしいのでしょうか、顔をならべて “うふふ、うふふ”、と笑っているようにも見えます。


.  転 寝

  

竹 帚

柱背に竹ぼうき抱きうたた寝す

 

 

 

転寝やおのれの鼾が邪魔をする

 

 

 朝の庭掃除を終え、柱を背にして竹ぼうきを抱き、少しの時間うたた寝をしました。朝の気持ちのよい爽やかな空気のなかで、この転寝は何とも至福の時間でした。


.  田 植

  

水 田

畦道に茶碗並べた田植かな

 

 

 

神々し水田のつづく信濃路や

 

 

 田植を終えた水田が遠くまで続き、その水面は青い空と白い雲を映しています。この水田の風景を“神々しい”と感じるのは、日本人の感性といえるでしょう。


5.  立 葵

  

立あおいの花

立あおい浴衣姿で粋に立つ

 

 

 

短夜や勝手にスリープ我パソコン 

 

 立葵の花が道端に咲いています。遠くから見ると、浴衣姿の娘さんが友だちと縁日に行くため、待ち合わせをしている姿に見えます。下町によく似合う花です。


6.  冷 酒

  

夏の酒器

冷酒や五臓六腑に流れゆく

 

 

               あるじ 

コップ酒かつて男は主人だった 

 

 一日の仕事を終えて帰宅の途中、地元の酒屋の店先で冷酒をキュッと立ち飲みし、家に帰って何事もなかったように新聞を読む。かつて男が主人であった頃の話です。


六 月


1.  梅雨入

  

葉ざくらの路

                 ついり

傘選び母とむすめの梅雨入かな

 

 

雨垂れや二つ傘ゆく垣根越し

 

 

 梅雨の時期になると傘売り場が賑わいます。男性用の大ぶりの傘、女性用の小ぶりで色彩豊かな傘、母とむすめが傘を広げながら楽しそうに傘選びをしています。


2.  花菖蒲

  

雨垂れ

菖蒲田の江戸紫の粋なこと

 

 

 

釈迦牟尼の立ち姿なりあやめぐさ

 

 

 梅雨入りして小雨に打たれる花菖蒲(アヤメ)は、濡れてしっとりとした立ち姿です。江戸紫と名の付いたあやめは、粋な芸者さんの立ち姿のように見えます。


3.  紫陽花

  

雨垂れ

紫陽花の彩振りまくや路地の裏

 

 

 

艶やかな紫陽花隠し立ち話

 

 

 紫陽花の色鮮やかな大輪が裏通りの片隅で咲いています。表通りなら皆から艶やかと褒められるのにと思いますが、紫陽花はこれでいいですと言っているみたいです。


4.  雨上り

  

雨垂れ

石畳濡れてしづかな雨上り

 

 

とが

栂の木にまだまだ若造と励まされ

 

 

 本堂横に樹齢四百年の栂の木がある禅寺をお参りしました。私も老齢になりましたと報告したら、栂の木にまだまだ若造じゃないかと笑われたような気がしました。


5.  袋田の滝

  

葉ざくらの路

    いわお

白龍は巌を伝いて泳ぎをり

 

 

滝姿われの煩悩小さい小さい

 

 

 日本三大名滝の茨城袋田の滝は豪快な滝姿です。白龍が谷川の巌を泳ぎ下り、轟音と共に滝壺に落ち込みます。この滝姿に比べたら、私の煩悩の何と小さいことか。


.  娘の涙

  

雨垂れ

平潟のむすめの涙川流る

 

 

 

江戸川の風に吹かれる女郎花

 

 

 水戸街道沿いの松戸は、江戸時代に江戸川を利用した鮮魚の集積地として賑わい、平潟遊郭がありました。東北から家の借金で多くの娘が連れてこられたそうです。